役者
本当の私なんぞ自分でもわからないのである。
部屋を一歩外に出ると私は「私」になる。鉤括弧で固くバリアする。
本当の自分がばれないように。与えられた仕事をそつなくこなし、細々と気を利かせ、笑顔を作り、声色も少し高めで。
でも本当の私は現実世界よりネットの世界が大好きなのだ。何もしないのが大好きだ。ベッドの上に寝そべって、そこから動くことなく、ツイッターを開いては承認欲求を満たすためにつぶやきを投稿する。誰かに自分の考えをただ「見て」欲しい。ふぁぼられればなおよし。自己満足の世界に没頭するのである。声も低め。
今日食べた物、聴いた音楽、自撮りをUPしては通知欄に数字が表示されるのを待つ。好きな人のツイートをこっそり覗いては今日もお疲れさまと心でつぶやきそっと文章を指で撫でる。そんなだらしなくすぎる時間が大好きだ。
明日の朝、目覚めたらまたギリギリまで私の世界に浸り、15分ほどで急いで身支度をして「私」に変身する。職場までの坂道を自転車で登りきり、一汗かいて「私」はまた声色を高めに、きちきちと動く。
ふと、笑顔を作りながら、手元を見た瞬間に考える。
これが「私」なのか?
職場から帰り、やらなければならないことを見事に放棄してツイッターに向かう。ベッドに寝そべって携帯の画面を覗きながら、ふと、考える。
「私」何してるんだろう。
「私」が何者なのか、本当の私は何なのか。急に立ち止まるのだ。私の脳みそは。
自分が何をすべきなのかもわからなくなる。虚無感から逃れるために。ツイッターの
「今何してるの?」
に必死に答える自分がいた。
何もしてなんかない。逃げているんだ。そんな気がする。ネットの世界でも職場でも、家族といるときも「私」を演じて。
結局本当の私はベッドに寝そべっているだけ。それも本当の私なのかわからない。
唯一わかるのは、私は「私」を演じている『役者』だということ。
明日も明後日も、舞台に立つ「私」。何かを感じたくて私は演じている。